そっと蓋をする - 3/4

セラは静かに資料をまとめ、次の指示を待っていた。
ジランドのすぐ傍、背筋を伸ばして控えている。
顔は伏せ気味だが、視線だけは何度も彼の横顔へ向けられていた。

昨夜の、あの静けさ。
目を閉じ、疲労を滲ませていた彼の姿が、頭から離れない。
ほんの一瞬でも、それを見た自分にだけ許されたもののような気がしていた。

(……今のこの人にも、あの姿はある)

それを思うだけで、胸の内が温かくも苦しくもなる。

その時だった。

「……セラ」

呼ばれて、はっと顔を上げる。
ジランドは資料に目を落としたまま、何かを探るような静かな声で、もう一度言った。

「何か言いたげだな」

「……っ、いえ、そんなことは……」

瞬間、視線が絡んだ。
鋭く、冷徹なはずのその瞳が――どこか、探るような色を宿していた。
気のせいではなかった。
ほんの僅か、まなざしの角度が柔らかくなった気がする。
ほんの一秒、彼の中で“何か”がほどけたような気がした。

だが、それはすぐに消える。
ジランドは再び資料へと目を戻し、事務的に次の命令を口にした。

「二十時までに報告を。遅れるな」

「……はい」

セラは軽く頭を下げた。
その頬は、言葉にできない想いをこらえるように、わずかに赤らんでいた。

ほんの一瞬だけれど。
あれは確かに、“彼”が見てくれた視線だった。

そして、気づいている。
きっとジランドもまた、気づいているのだと――


(次ページ/あとがき)