そっと蓋をする - 1/4

「……失礼します。今夜の報告書を――」

ノックをしてから扉を開けたセラは、そこで思わず息を呑んだ。

灯りの落とされた私室の奥。
書きかけの書類が机の上に散らばる中、ジランドは背凭れに身を預けたまま、静かに目を閉じていた。
額の髪がわずかに乱れ、片手には読みかけの資料。
もう一方の手は膝の上にだらりと落ちたまま。

呼吸は深く穏やかで、眠っているわけではないのだろう。
ただ――疲れている。それだけが、ひしひしと伝わってくる。

(……珍しい)

普段のジランドからは想像もつかないほど、無防備だった。
眉間に皺も寄せず、口元にはいつもよりほんの少しだけ、力の抜けた影が浮かんでいる。
まるで、彼が“人間”であることをようやく思い出させるような姿だった。

その静けさが、セラの胸を締めつけた。

疲れているはずなのに、どこか美しいと思ってしまう。
触れてはいけないのに、近づきたくなる。

いつものように冷徹に視線を向けてくるわけでもなく、命令の言葉を紡ぐわけでもない。
ただそこに在るだけの彼に、目が離せなかった。

「……セラか」

低く、喉奥で転がるような声が落ちた。
目は開けないまま、彼は気配で彼女の存在を察していた。

「すみません……お休みのところを」

「いい。ただ、考えを整理していただけだ」

わずかに眉を動かし、ジランドは目を開けた。
その茶色の瞳と、正面から合う。
だが、いつもよりも焦点がやや曖昧で――それがまた、セラの心をかき乱す。

「報告書か。置いていけ。後で読む」

「……はい」

机に書類を置き、ほんの一瞬だけ彼を見やる。
ジランドは何も言わず、また視線をそらして椅子にもたれた。

(……もう少し、ここに居たい)

そんなことを思ってしまう自分を、セラは叱るように心の中で諫めた。
そして小さく頭を下げ、静かに部屋を後にする。

けれど――
扉が閉まる寸前、もう一度だけ振り返ってしまった。
静けさに包まれる彼の横顔は、やはり抗いようもなく美しかった。