そっと蓋をする - 2/4

翌朝。
ブリーフィングルームに響くのは、ジランドの低く鋭い声だった。

「第七班は西側へ回り込め。第一班と合流後、遅滞なく脱出路を確保しろ。……繰り返す必要はないな?」

「は、はい!」

「なら行け」

短く命じられた構成員たちが、即座に足音を響かせて出ていく。
その様子を見届けながら、ジランドは手元の端末に目を落とし、次の指示へと視線を移した。

セラは扉の脇に控えたまま、その横顔を見つめていた。

――まるで、昨夜の彼が幻だったかのように。

きびすを返す動作も、発せられる言葉も、何ひとつとして隙がない。
冷静、的確、容赦がなく、誤差も温情も許さない“最高指導者”。
まさに、アルクノアのリーダーとしての姿だった。

(……当たり前だ)

そう思いながらも、セラの胸の奥は少しだけ、痛んだ。

彼にとって昨夜の静けさは、ほんの一瞬の“休止符”にすぎない。
疲れていても、弱っていても、それを誰かに預けるような人ではない。
あの一幕を見てしまったのは――きっと、偶然だったのだ。

「セラ、次の報告書を」

「……はい」

差し出された手に資料を渡すと、ジランドの指先がわずかに触れた。
それだけで、胸の奥に熱が走った。

だが、彼の表情は変わらない。
いつものように淡々と目を通し、すぐさま命令へと切り替える。

「第十一班の移動記録に不自然な空白がある。精査しろ」

「……了解しました」

機械のように応じながらも、セラはその指の感触だけを、まだ掌に残していた。

今この瞬間の彼に、昨夜のような優しさも柔らかさもない。
だが――それでいいのだとも、思っていた。

それが、彼の“いつも”なのだから。