翌朝。
ブリーフィングルームに響くのは、ジランドの低く鋭い声だった。
「第七班は西側へ回り込め。第一班と合流後、遅滞なく脱出路を確保しろ。……繰り返す必要はないな?」
「は、はい!」
「なら行け」
短く命じられた構成員たちが、即座に足音を響かせて出ていく。
その様子を見届けながら、ジランドは手元の端末に目を落とし、次の指示へと視線を移した。
セラは扉の脇に控えたまま、その横顔を見つめていた。
――まるで、昨夜の彼が幻だったかのように。
きびすを返す動作も、発せられる言葉も、何ひとつとして隙がない。
冷静、的確、容赦がなく、誤差も温情も許さない“最高指導者”。
まさに、アルクノアのリーダーとしての姿だった。
(……当たり前だ)
そう思いながらも、セラの胸の奥は少しだけ、痛んだ。
彼にとって昨夜の静けさは、ほんの一瞬の“休止符”にすぎない。
疲れていても、弱っていても、それを誰かに預けるような人ではない。
あの一幕を見てしまったのは――きっと、偶然だったのだ。
「セラ、次の報告書を」
「……はい」
差し出された手に資料を渡すと、ジランドの指先がわずかに触れた。
それだけで、胸の奥に熱が走った。
だが、彼の表情は変わらない。
いつものように淡々と目を通し、すぐさま命令へと切り替える。
「第十一班の移動記録に不自然な空白がある。精査しろ」
「……了解しました」
機械のように応じながらも、セラはその指の感触だけを、まだ掌に残していた。
今この瞬間の彼に、昨夜のような優しさも柔らかさもない。
だが――それでいいのだとも、思っていた。
それが、彼の“いつも”なのだから。