満ちる、ということ - 2/3

彼女がこちらを見上げている。

伏し目がちに、けれど逃げずに――
その瞳には、はじめから一切の迷いがなかった。

(……なんて目をする)

忠誠でも、献身でもない。
それを超えた何かで、彼女はこの身を差し出している。

言葉を口にするよりも早く、
ジランドはその身体を抱き寄せていた。

肌に触れる指先が、思っていた以上に柔らかく、
そこにある温度が、抗い難い熱として意識を蝕んでいく。

(これは、ただの本能ではない)

唇を重ねる。
彼女は拒まない。
むしろ、受け入れている――最初からすべてを。

熱に包まれながらも、頭のどこかが警鐘を鳴らす。

お前は何をしている。
これは必要なことなのか。
彼女は部下だ。
若すぎる。
無垢すぎる。
――だが。

(……なら、なぜこんなにも抗えない)

浅ましい。情けない。
そう思うはずなのに、指先が、唇が、肌が、彼女を求めることを止められない。

重なった身体の奥、
セラの吐息が震えている。

それは苦しさではなく――喜び。

こんなにも深く繋がりながら、
彼女の目に浮かぶのは、安堵と、幸福と、ただの「信頼」。

(……俺は)

崩れている。
静かに、確実に、彼女に。

「……セラ」

その名を呼んでしまった瞬間、もう逃げ場はなかった。

肩を抱く腕に力がこもる。
額を彼女の髪に預ける。

彼女の温もりを、香りを、甘さを――もう手放せないところまで来ている。

身体を重ねるたびに、彼女が自分のものになっていく感覚。

そして同時に、己が彼女に染まっていく。

いつしか彼の吐息も荒く、
その理性の奥で何かが音を立てて崩れていくのを、
彼自身、止めようとはしなかった。

最後に目を閉じるとき、
彼の胸に残っていたのは、静かな確信だった。

(――俺は、もう)

もう引き返せない。

それでも。
腕の中の彼女を、静かにそっと引き寄せた。


(次ページ/あとがき)