彼女がこちらを見上げている。
伏し目がちに、けれど逃げずに――
その瞳には、はじめから一切の迷いがなかった。
(……なんて目をする)
忠誠でも、献身でもない。
それを超えた何かで、彼女はこの身を差し出している。
言葉を口にするよりも早く、
ジランドはその身体を抱き寄せていた。
肌に触れる指先が、思っていた以上に柔らかく、
そこにある温度が、抗い難い熱として意識を蝕んでいく。
(これは、ただの本能ではない)
唇を重ねる。
彼女は拒まない。
むしろ、受け入れている――最初からすべてを。
熱に包まれながらも、頭のどこかが警鐘を鳴らす。
お前は何をしている。
これは必要なことなのか。
彼女は部下だ。
若すぎる。
無垢すぎる。
――だが。
(……なら、なぜこんなにも抗えない)
浅ましい。情けない。
そう思うはずなのに、指先が、唇が、肌が、彼女を求めることを止められない。
重なった身体の奥、
セラの吐息が震えている。
それは苦しさではなく――喜び。
こんなにも深く繋がりながら、
彼女の目に浮かぶのは、安堵と、幸福と、ただの「信頼」。
(……俺は)
崩れている。
静かに、確実に、彼女に。
「……セラ」
その名を呼んでしまった瞬間、もう逃げ場はなかった。
肩を抱く腕に力がこもる。
額を彼女の髪に預ける。
彼女の温もりを、香りを、甘さを――もう手放せないところまで来ている。
身体を重ねるたびに、彼女が自分のものになっていく感覚。
そして同時に、己が彼女に染まっていく。
いつしか彼の吐息も荒く、
その理性の奥で何かが音を立てて崩れていくのを、
彼自身、止めようとはしなかった。
最後に目を閉じるとき、
彼の胸に残っていたのは、静かな確信だった。
(――俺は、もう)
もう引き返せない。
それでも。
腕の中の彼女を、静かにそっと引き寄せた。
(次ページ/あとがき)