どれほどの時間が経ったのか、わからない。
熱に浮かされるような感覚のなかで、
それでも私は、はっきりと「この人の腕の中にいる」ことだけを理解していた。
彼が、私を見つめている。
その目に映るのは、部下としての私ではなく――
今だけは、ただ一人の“女性”としての、私。
「……っ、ジランド、さま……」
細くこぼれた声を、彼の指がそっと塞ぐ。
その仕草さえ、優しくて、
泣いてしまいそうなほどだった。
痛みはなかった。
むしろ、ずっと求めていたものに包まれているようで。
――私は、受け入れられている。
こんなにも冷静で、どこまでも遠い人が、
いま目の前で、私にだけ見せる表情をしている。
そのことが、
胸の奥を、じんわりと温かくしていった。
彼の手が、私の頬に添えられる。
決して乱暴ではない。
かといって、甘やかしすぎるわけでもない。
ただ、“大切にしている”ということが伝わってくる。
(ああ……)
私は、心の中で何度も繰り返していた。
――幸せだと。
――この人のものでいられて、幸せだと。
声には出せない。
こんな想いを、口にするなんて、おこがましくてできない。
けれど胸の奥で、確かに感じていた。
この時間が、
この温度が、
この重なりが――ずっと続けばいいのに。
ほんのひとときでも、
この人が、自分だけを見ていてくれるのなら。
その想いがあふれて、涙になりそうだった。
けれど私は泣かなかった。
泣いてしまえば、
彼の表情が曇ってしまう気がしたから。
私はただ、
彼に満たされながら、静かに目を閉じた。
その瞬間――胸いっぱいに、幸福が満ちていた。