満ちる、ということ - 1/3

どれほどの時間が経ったのか、わからない。

熱に浮かされるような感覚のなかで、
それでも私は、はっきりと「この人の腕の中にいる」ことだけを理解していた。

彼が、私を見つめている。

その目に映るのは、部下としての私ではなく――
今だけは、ただ一人の“女性”としての、私。

「……っ、ジランド、さま……」

細くこぼれた声を、彼の指がそっと塞ぐ。

その仕草さえ、優しくて、
泣いてしまいそうなほどだった。

痛みはなかった。
むしろ、ずっと求めていたものに包まれているようで。

――私は、受け入れられている。

こんなにも冷静で、どこまでも遠い人が、
いま目の前で、私にだけ見せる表情をしている。

そのことが、
胸の奥を、じんわりと温かくしていった。

彼の手が、私の頬に添えられる。

決して乱暴ではない。
かといって、甘やかしすぎるわけでもない。

ただ、“大切にしている”ということが伝わってくる。

(ああ……)

私は、心の中で何度も繰り返していた。

――幸せだと。
――この人のものでいられて、幸せだと。

声には出せない。
こんな想いを、口にするなんて、おこがましくてできない。

けれど胸の奥で、確かに感じていた。

この時間が、
この温度が、
この重なりが――ずっと続けばいいのに。

ほんのひとときでも、
この人が、自分だけを見ていてくれるのなら。

その想いがあふれて、涙になりそうだった。

けれど私は泣かなかった。

泣いてしまえば、
彼の表情が曇ってしまう気がしたから。

私はただ、
彼に満たされながら、静かに目を閉じた。

その瞬間――胸いっぱいに、幸福が満ちていた。