触れられないまま、触れていたい

いつもの空気とは少しだけ違う、朝の静寂。

すでに目を覚ましていたジランドは、
隣で眠るセラの方へ、ゆっくりと視線を落としていた。

彼の肩に、柔らかな重みがある。

――ゆるくウェーブのかかったブロンドの髪が、そっと彼の胸元に流れていた。

その髪の合間から見える頬は、いつもよりわずかに血の気を帯びていて、
薄く閉じた唇も、まるで何かを呟こうとするように微かに動いている。

セラは眠っていた。
安心しきった呼吸。誰の目も意識していない、本当に無垢な寝顔。

ジランドはそれを、
一言も発せず、ただじっと見つめていた。

(……こうして預けることに、何のためらいもないのか)

そう思いながら、
触れることも、名を呼ぶこともせず、ただ見ていた。

睫毛の一本、頬の産毛、指の先まで、
目をそらす理由がなかった。

だが、触れてはいけなかった。

彼女の頬に手を伸ばせば、
きっとこの静けさは壊れる。

彼女の髪に指を通せば、
自分の理性が揺らぐ。

だからジランドは、動かなかった。
ただひたすらに、見つめるだけで足りると思いたかった。

ほんの一瞬でも、
この静けさのなかでだけは、己が何者であるかを忘れられるような――

そんな、誰にも言えない幸福を抱えながら。

そして彼は、小さく息をつく。

「……全く、お前は」

声は漏れそうで、結局漏れなかった。