日がまだ高い昼下がりの執務室。セラが進捗報告を終え、退室しようとしたその時だった。
「では、失礼――」
手にしていた資料をジランドに渡し、くるりと振り向いたセラの足が、
ふと、カーペットの縁に引っかかった。
「あっ……!?」
バランスを崩し、今しがた資料を渡したジランドの胸元へ――
そのまま勢いよく、倒れ込んだ。
触れたのは床ではなかったものの、思いのほか硬い感触だった。
セラは、間の抜けた音と同時に、しっかりと抱き留められていることに気付いた。
片腕で腰を支えられ、もう一方の手が背に添えられ……顔が近い。とても近い。
「まったく……どこまで注意が足りない?」
低く呆れた声が、頭上から落ちてくる。
でもそれよりも――
腕の中にいる自分が、どれだけ恥ずかしい格好をしているかに気付いてしまった。
ブラウスの襟元がずれ、下着のストラップが肩から落ちかけている。
視線をそらしたジランドの目線が、一瞬だけそこに触れたのを感じた。
「す、すみませんっ……!」
慌てて姿勢を戻そうとした瞬間、まだ腕は彼の体を支えたままだった。
慌てて逃げようとした動きの反動で、思いがけずさらにぐっと密着してしまう。
「あ……っ」
ブラウス越しに感じる、硬い胸板。
呼吸のたびに微かに動くその熱に、セラの心臓が跳ね上がる。
「……動くな。余計に乱れる」
静かに、でも確かに低くそう言われ、セラは固まってしまう。
頬が、耳が、きっと真っ赤になっている。
逃げ出したいのに、なぜか身体は動けない。
「お前の手元の甘さは、いつか命取りになるな」
彼の手が、ずれかけたストラップを無言で戻してくる。
指先が肩に触れた瞬間、びくりと背筋が震えた。
そして――
「その顔で見上げるな。……紛らわしい」
ぼそりと、そう呟かれた言葉に、セラはますます顔を覆いたくなった。
やっとの思いで距離を取り、姿勢を整えながら、
「申し訳ありません……今後、気をつけます」と小さく呟く。
けれど視線はどうしても彼に向いてしまう。
少しだけ緩んだ口元と、何事もなかったように資料を手に取る所作に――
(……絶対、からかわれてる……)
そう、心の中で小さく抗議するしかなかった。
(次ページ/あとがき)