躓いた先 - 1/2

日がまだ高い昼下がりの執務室。セラが進捗報告を終え、退室しようとしたその時だった。

「では、失礼――」

手にしていた資料をジランドに渡し、くるりと振り向いたセラの足が、
ふと、カーペットの縁に引っかかった。

「あっ……!?」

バランスを崩し、今しがた資料を渡したジランドの胸元へ――
そのまま勢いよく、倒れ込んだ。

触れたのは床ではなかったものの、思いのほか硬い感触だった。

セラは、間の抜けた音と同時に、しっかりと抱き留められていることに気付いた。
片腕で腰を支えられ、もう一方の手が背に添えられ……顔が近い。とても近い。

「まったく……どこまで注意が足りない?」

低く呆れた声が、頭上から落ちてくる。

でもそれよりも――
腕の中にいる自分が、どれだけ恥ずかしい格好をしているかに気付いてしまった。

ブラウスの襟元がずれ、下着のストラップが肩から落ちかけている。
視線をそらしたジランドの目線が、一瞬だけそこに触れたのを感じた。

「す、すみませんっ……!」

慌てて姿勢を戻そうとした瞬間、まだ腕は彼の体を支えたままだった。
慌てて逃げようとした動きの反動で、思いがけずさらにぐっと密着してしまう。

「あ……っ」

ブラウス越しに感じる、硬い胸板。
呼吸のたびに微かに動くその熱に、セラの心臓が跳ね上がる。

「……動くな。余計に乱れる」

静かに、でも確かに低くそう言われ、セラは固まってしまう。
頬が、耳が、きっと真っ赤になっている。
逃げ出したいのに、なぜか身体は動けない。

「お前の手元の甘さは、いつか命取りになるな」

彼の手が、ずれかけたストラップを無言で戻してくる。
指先が肩に触れた瞬間、びくりと背筋が震えた。

そして――
「その顔で見上げるな。……紛らわしい」

ぼそりと、そう呟かれた言葉に、セラはますます顔を覆いたくなった。

やっとの思いで距離を取り、姿勢を整えながら、
「申し訳ありません……今後、気をつけます」と小さく呟く。

けれど視線はどうしても彼に向いてしまう。
少しだけ緩んだ口元と、何事もなかったように資料を手に取る所作に――

(……絶対、からかわれてる……)

そう、心の中で小さく抗議するしかなかった。


(次ページ/あとがき)